親だからこそ知らない子供の真の姿「息子が殺人犯になった」<書籍レビュー>
こんばんは、妖子です。
1999年にアメリカで発生したコロンバイン高校銃乱射事件。
私には当時の記憶がありませんが、子供による子供をターゲットにした無差別大量殺人というその残虐性や他の事件の殺人犯が崇拝しているという異常性から、事件のことは知っていました。
今回、たまたま手に取った本書から受けたものは、ショックよりも気づきの方が大きかった。
もちろんショックも大きいです。言うまでもありません。でも、身の回りのいろいろなことに置き換えて読み進めると、ショック以上に呆然としてしまいます。
こんな残酷なこと、事前に防ぐことなんてできるのだろうか。と。
なぜ我が子の異常に気づけなかったのか。
事件以来、自身の精神を犯しながら、必死になってその答えを模索し続けた犯人の母親の手記です。
非常に暗い気持ちではありますが、レビューを始めましょう。
☆基本情報☆
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タイトル:息子が殺人犯になった
(原題:A Mother’s Reckoning: Living in the Aftermath of Tragedy)
ジャンル:犯罪ノンフィクション、手記
見どころ:一般家庭に潜む悪の在り方
ブログ内でのネタバレ:なし
刊行年:2017年
どうして息子が無差別殺人犯に?
とても良い息子だった。
聡明で、両親思いで、友達との関係も良好で。
もちろん、反抗的だったり、沈んだりしていた時もあるけれど、思春期ってそういうもの。
やたら早起きだなぁと思ったあの日、息子は悪魔になった。
隠し持っていた銃で武装した息子は高校を襲撃し、無差別殺人を行った。
そして、すべての悪行を終えると、自らの命を絶った。
なぜ、なぜ、なぜ。
それから、数十年かけて、この事件の犯人であるディラン・クレボルドの母親スー・クレボルドは、その「なぜ」の答えを探し続けることになります。今もその苦行は続いていることが本書からしっかり見てとれます。
さっきまでとりとめない会話をした自分の愛する子供が、今この瞬間にテロ行為を働いているとしたら?
誰かを殺しているとしたら?
その「なぜ」と問い続けることの苦悩は、とても文面で表せるものではありません。
悲痛、苦悩、絶望
死んだ方が楽になれる
この言葉がこれほどしっくりくるシチュエーションもなかなかありません。
読み進めるのが辛かったです。
息子をなくした悲しみ。
殺人をおかした息子への絶望。
犠牲者への悔やみ。
犠牲者遺族からの憤り。
嵐のような誹謗、中傷。
ストーカーのようなマスコミ。
事実とは異なる報道。
被害者に訴えられたことによる破産。
事件後の離婚。
いろいろな感情が渦巻く様子が書籍の終盤まで続きます。
母と息子は似ている
私もただ文章を追っていたわけではなく、「なぜ」を考えていました。
一番最初に気付いたのは、母と息子は似ている、という点。
目立ちたがり屋で、自己顕示欲が高く、聡明で、プライドが高い。
特に息子の方は、幼い頃から異常なまでのプライドの高さと自己顕示欲の強さが表に出ていました。
凶悪犯罪が起こると、家庭環境に原因があるんだろうなぁと思う人が多いはずです。私もその一人。
でも、実際はそれ以上に残酷で、家庭環境はもちろん、家庭外の環境も大きく影響するし、なによりも本人の性格やDNAも無視できないと思うのです。
あまりに常軌を脱した生活態度が見てとれる際は、脳の異常を考える必要があります。スーが本書の中で述べています。
だからといって、犯罪を犯して良い理由には到底ならず、そこにもまた、彼女の苦悩があるのです。
クレボルドファミリーはどこにでもいる一般的な家族です。
プライドが高い人はいっぱいいるし、過剰すぎる正義感を持っている人もたくさんいます。
故に衝突したり、折りの合わない家族は星の数ほどいるはずです。
それに子供の家庭外での生活態度を知っている親の方が珍しいでしょう。
この事件は無数の歯車の調子が少しずつ噛み合わず、全体の動きが暴走始めた時に起こったのではないでしょうか?
それは、つまり、どの家庭でも起こりうるという恐ろしい結論に辿りつきます。
自分以外の人間は「他人」である
「他人の気持ちを考えて」とよく言われますが、他人の気持ちなんてわかるわけありません。
「自分は他人の気持ちに寄り添える」という一種の過剰な自信や思い込みが、時に取り返しのつかない結果をもたらします。
自分以外の人間は本当の意味で「他人」です。それは、例え血の繋がった肉親であっても例外ではありません。
愛することと、自律することと、距離を置くことは独立して存在すべきです。
これはすべての人間関係に言えることではないでしょうか。
鍵は耳を傾けること
「あのとき叱るのではなく、きちんと話してもらうべきだった。」
スーの後悔の言葉です。
もし、彼の本心を聞いてあげられていたら、これほど悲しい事件は起こらなかったのか。
それは誰にもわかりません。
でも、スーはいたってシンプルな答えを見つけ出していました。
話を聞くというシンプルな答えに・・・。
また、本書の中では、子供たちの異変の見つけ方や兆候をリスト化しています。
端的に言うと、「どうやったら身近な人の鬱に気付けるか」ということです。
子供たちだけではなく、大人でも同じことが言えると思うので、必読です。
まとめ
非常につらい本でした。しかし学びもありました。
どうしたら防げたのか。明確な答えは一生出ないように思われます。
この本はあくまでも、肉親である母親の視点で書かれています。
大変興味深かったので、専門家やライターなど別の視点から書かれた書籍を読んでみようと思います。
そのレビューは近いうちに起こせることでしょう。
<補足>
このレビューを作成し終わった後、スーが話している15分ほどのTED動画を発見しました。この本に書いてあることが集約されており、彼女が終始毅然としているので、書籍ほど暗い気持にならずに見聞きすることができます。
私個人が見つけ出した答えよりも、さらに残酷な答えを導き出したスーに言葉が見当たりません。